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横浜地方裁判所 昭和61年(ワ)2724号 判決

原告 光野達志

被告 伊藤喜和夫

〈ほか二名〉

右被告ら訴訟代理人弁護士 服部弘志

中島史郎

主文

本件請求中別紙物件目録記載の土地の範囲及び面積の確認を求める訴を却下する。

原告の別紙物件目録記載の土地に対する共有物分割の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告

1  別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)の範囲は、別紙図面記載のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、チ、リ、ヌ、ヲ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、イの各点を順次結んだ直線によって囲まれる部分であり、別紙物件目録記載の土地の面積は九四・七八平方メートルであることを確認する。

2  本件土地を別紙分割目録並びに別紙図面(一)のとおり分割する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

旨の判決を求める。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告伊藤、同寺田、同白馬は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)をそれぞれ順次九四七八分の三二二三、九四七八分の一〇〇四、九四七八分の二一五六、九四七八分の三〇九五の持分で共有している。

2  原告は被告らに対し本件土地を分割するよう請求したが拒絶され協議が調わない。

3(一)  本件土地の範囲は別紙図面記載のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、チ、リ、ヌ、ヲ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、イの各点を順次結んだ直線によって囲まれる部分であり、本件土地の面積は九四・七八平方メートルである。

(二) 本件土地の実測総面積は登記面積と異なる。

よって、原告は被告らに対し、本件土地の範囲は別紙図面記載のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、チ、リ、ヌ、ヲ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、イの各点を順次結んだ直線によって囲まれる部分であり、本件土地の面積は九四・七八平方メートルであることを確認するとともに、民法二五八条一項に基づき本件土地の分割を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第一項中、本件土地を原告、被告伊藤、同寺田、同白馬が主張のとおり共有している事実は認める。

2  同二項の事実は否認する。

3  同三項(二)の事実は認める。

三  抗弁

仮に請求原因2の事実が認められたとしても、被告伊藤、同寺田、訴外一石三郎、同一石君子は、本件土地を含む宅地を訴外勝栄建設株式会社から買受ける際、本件土地は買受人全員の私道に供する目的のために存在するものであり、各持分の所有者が変更しようともその全員の合意がない限りまたは私道としての共同目的が終了しない限り分割できないものであることを説明され了知しており、本件土地の共同所有形態を合有とする旨の合意が当事者間において成立していた。

四  抗弁に対する認否

否認する。

五  被告らの本案前の主張

本件土地は共有者全員が私道として利用している土地であって、各共有者が他の共有者の持分に対しそれぞれ通行地役権を有しており、本件土地を共有持分に応じて分割しても通行地役権の制約を受けている以上分割することに何らの利益がなく本件共有物分割の訴には訴の利益がない。したがってまた、分割の前提として本件土地の範囲、面積の確認を求めることについても訴の利益がない。

六  被告らの本案前の主張に対する原告の反論

1  共有物分割の訴は、共有者間に協議が成立しなければそれだけで訴の利益がある。

2  本件土地を分割することにより原告は次のような利益を受ける。

(一) 分割して単独所有となればその部分を含めて担保に供することができる。

(二) 分割して単独所有となれば、各自私道に対する負担ないし義務の範囲が明確となり、原告が現状のように過大な負担を強いられることがなくなる。

3  本件土地の実測総面積が登記面積と異なる以上、分割の前提として地積更正登記が必要でありそのための承諾を被告らから得られない以上本件土地の範囲及び面積を確認する利益がある。

三 証拠の提出、援用及び認否《省略》

理由

一  本案前の判断

共有物分割請求に対する被告らの主張は、分割請求権の不存在を主張するに帰するから、実体上の請求権の存否についての判断によって決すべきものであり、訴え却下の申立ては理由がない。

2 別紙物件目録記載の土地の範囲並びにその面積の確認を求める請求については、原告の主張するところによっても共有物分割を求める前提として必要であるからこれを求めるというにすぎず、その主張するところによっても当事者間にこの土地の範囲、面積について特に紛争があるというのではなく、弁論の全趣旨によってもこの点について争いがあるものとは認められない。

しかも、原告の求めるところは、事実の確認を求めるにすぎない(その請求の趣旨が、境界の確認を求める趣旨であれば、被告とすべき当事者を誤っている。)ものであり不適法である。

よって原告の本訴請求中この部分の訴えは却下すべきものである。

二  本案について

1  原告と被告らが本件土地を共有している事実、原告が本件土地の共有持分に基づいて本件土地の分割を求めたが被告らがこれを拒絶し協議が調わない事実は当事者間に争いがない。

2  被告らは原告の共有物分割請求権の存在を争うので検討するに、《証拠省略》を総合すると次のように認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

本件土地及び被告白馬所有に係る日吉本町字鯛ケ崎四三一番地六の宅地、同寺田所有に係る同番地四の宅地、同伊藤所有に係る同番地五の宅地、原告所有に係る同番地七の各宅地(以下「原告、被告ら所有宅地」という)ほか二筆の宅地とともに一筆の土地であったところ、その所有者であった訴外勝栄建設株式会社がこれを別紙図面(二)のとおり区画し、分筆の上本件土地を除く各区画の土地(原告、被告ら所有宅地)上に居住用住宅を建ててこれを分譲した。原告、被告ら所有宅地の敷地はいずれも公道に接していないため、これらの土地から公道に通じるための土地、すなわち共用の私道とするために本件土地を区画し、これを分譲の土地、建物を取得する者の共有とし、分譲の土地、建物の所有権に付加して持分を譲渡した。

3  以上のように認められるところ、この事実に基づいて判断するに、本件土地は原告、被告ら所有宅地の、その取得時及び現在における使用目的、すなわちそれぞれが各別の独立した住宅用土地として使用されているかぎりにおいて、原告、被告ら所有宅地にとって必要不可欠な土地であり、設定された目的の点においても、位置、形状の点においても各所有宅地に付属する関係にあるとみられる。そして、これは原告、被告らに共通するものであり、その共通する目的のもとに本件土地の共有関係が設定され、原告、被告らはこのような共通の目的によって、共通の目的が消滅しないかぎり、共有物の分割を予定しないものとして共有関係に入ったものと認められる。また、本件土地はその地積、形状(別紙図面(一)のとおりであることに当事者間に争いがない。)位置関係に照らし、原告、被告ら所有土地と切り離して独立した土地としては、利用価値、交換価値が著しく乏しく、これを共有持分に応じて分割することは一層これを乏しくするものと認められる。

このように、特定の、かつ共有者間に共通する目的のもとに土地の区画が設定されて共有関係が形成され、共有者間で共有物の分割が予定されていない共有物であって、その外形上もそのような関係にあることが明らかな共有物においては、民法二五七条、六七六条に準じ、その権利に内在する制約として、共有関係が設定された共同の目的、機能が失われない間は、他の共有者の意思に反して共有物の分割を求めることができないものと解するのが相当である。

以上のとおりであるから、本件土地について共有物の分割を求める原告の請求は理由がない。

三  よって原告の請求を棄却することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

〈以下省略〉

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